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希望

くらげ(投稿日:2004/05/22)

少年は鳥になりたかった
悠久の時を渡る鳥に
大きな大きな真っ白の、純白の羽根を持った鳥に
緑の匂いの風に乗ってうねる波の飛沫を見下ろして大海原を超えて
悠久の時を渡る鳥に


遠い空
空ってどんな色だった?
青かった?蒼かった?碧かった?

遠い海
海ってどんな色だった?
青かった?蒼かった?碧かった?

僕が見上げるのは真っ白な天井、真っ白なカーテン、真っ白な壁
光が刺しても瞼を焼かない白い世界
少し腕を上げるだけで引き摺るチューブ
少し背を上げるだけで荒ぶる呼吸
胸の奥底からゼーゼーと不協和音
中途半端な白い世界から逃げたい
求めるのは世界を焼く白
瞳を射る白
『眩しい白』

そっと、瞼閉じる
真っ暗になりきらない視界の奥に頭蓋骨が微笑む
もう、見慣れた『彼』に微笑む
『彼』は無表情に歴史を語る
『彼』の背負う哀しみ
『彼』の背負う虚無
『彼』は死の象徴?



緩やかに落ちていく
この不快な白の世界から解き放たれる刹那
窓の向こうのあの真っ白に融合する瞬間
あぁ、真っ暗の向こうに溢れた
あれは、光だ
脳髄の奥から頭蓋の骨の『彼』が飛び出した
開放を待っていたのは僕だけじゃなかった
君もだ
『彼』は無表情に、けれど歓喜を暴発させ飛んでいく
『僕』の背にはまだ羽根がない

待ってよ!!
君の行くその世界に飛んでいきたい
時を渡るんだ
解き放たれるんだ
大いなる世界へ!
白く、蒼く、美しく、眩しい風を受けて空を翔ける鳥になるんだ!!!!!!

『彼』が振り返った
目の前で
『彼』は無表情に問い掛ける

「来てしまって良いのか?」

行くんだ!!!
飛び立つんだ!!!!
この曖昧な白の世界から飛び立つんだ!!!!

『彼』が微笑んだ

世界は白く、真っ白く
何処までも青く、広く、
風は大地を翔け、緑を揺らす



少年の身体は屍と化し、いずれは『彼』と同じ頭蓋になるだろう
少年の魂は鳥になり、とうとう悠久の時に旅立った

そして人々は少年を見上げ嘲るだろう
そして人々は頭蓋を見つけ恐れるのだ

『希望』を忘れた我々は
『破壊』を覚えた我々は
いつか少年を思い出すのだろうか?
いつか頭蓋に出会うだろうか?

あぁ!
それでも世界は白く明けるのだ!!