乳歯と子供の歯列矯正について
毎日新聞コラムより
「らくらく健康術」
1.歯を守るF
粗末に扱うと後が大変な乳歯 (2000年5月25日付朝刊)
林 晋哉
乳歯はいずれ永久歯に生え変わるからと、粗末に扱われがちですが、乳歯の状態がその後の永久歯に引き継がれることが多いので、大切にしなければなりません。その後に生えてくる永久歯の歯並びを決定すると言っても過言ではありません。
どの子も乳歯が生えてくる場所は遺伝子で決定されていますので、乳歯そのものが乱れて生えてくることはまずありません。乳歯の歯並びを乱す主な原因は、乳歯が虫歯になる歯の崩壊です。乳歯は永久歯に比べると軟らかいため、虫歯になりやすいといえます。
乳歯が生え始め、主に乳歯で咀嚼【そしゃく】をする0〜6歳くらいの時期は、身体だけでなく、あごも著しく成長していきます。0歳と6歳では、あごの大きさはまるで違います。上下の乳歯は3歳ごろにガッチリかみ合うようになりますが、その後も、あごは成長し続けます。上下の乳歯がガッチリかみ合ったままですと、あごは自由に成長できませんので、乳歯が少しずつすり減ることで、かみ合わせも変化し、あごの成長に調和していくのです。そのために永久歯に比べて軟らかく、虫歯にもなりやすいのです。
しかし、小さい子供の歯の家庭でのケアは大変難しく、虫歯を完壁に予防することは困難です。やはり専門家の定期検診は必要です。
虫歯になってしまった場合の治療法は大人の場合とは異なります。乳歯はあごの成長とともにすり減っていかなくてはならないため、乳歯のかむ面に虫歯ができた場合は、初期ならば進行止めの薬(サホライド)を塗ってもらいましょう。
この薬は、塗った個所が黒くなる欠点がありますが、虫歯の進行をかなり遅らせることができます。さらに進行してしまった場合は、虫歯の部分を削り、セメントかプラスチック(レジン)で埋めてもらいましょう。
硬い金属を詰めると、かむ面がすり減らないため、その時点でのかみ合わせが固定されてしまい、偏ったかみ方やあごのずれの原因になりやすいので、できるだけ避けたいものです。歯と歯が隣りあった面が虫歯になった場合は、乳歯のまわりに金属製のバンド(帯冠といい、再い指輪のようなもの)を接着し、隣の歯との間隔を保ち、歯が移動するのを防止します。
乳歯の治療は、歯のまわりを硬くし、かむ面は他の乳歯と同程度の硬さにすることが鉄則です。いずれにしても永久歯の歯並び、かみ合わせは、全身の健康にもつながりますので、こうしたことを前提に乳歯を管理、治療してくれる歯科医を見つけることが大切です。次回は交換期(乳歯から永久歯への移行期)の注意と子供の歯列矯正について解説します。
(歯科医師)
2.歯を守るG
あごの成長欠かせぬ永久歯 (2000年6月8日付朝刊)
林 晋哉
小学校の6年間は、乳歯から永久歯へと生え変わる時期です。永久歯は乳歯よりも大きいので、あごの成長に沿って一本一本時間をかけて、ゆっくり変わっていきます。
しかし、この時期にあごが十分に発育しないと、永久歯が重なって生えたり、横へ飛び出して生えたりします。最近は、あごの未発達が原因と思われる歯並びの悪い子供たち(若者も)が増えています。あごの十分な成長発育には、よくかむことが必要不可欠ですが、子供たちの好きなカレー、ハンバーガー、スパゲティ、すしなど、最近の食事は軟らかい物が多く、我々大人も合めてかむ回数は減る一方です。
また、小顔がブームになるなど、歯並びやかみ合わせのことを考えると、先が思いやられます。
もはやこうした状況を変えるには、保育園、幼稚園、小中学校の科目に一日10分程度、硬めのガムやスルメなどをかむ「あごの時間」を設けたらよいかと思いますが、なかなかそういう状況にならず残念です。
そこで、家庭での食事の工夫として、「おかずの具は細かく切らずに大きいままにして出す」「歯応えのあるものを.一品加える」「水やジュースは食後にする」「パンの耳は取らない(できればフランスパン)」「食事をせかさない」「おやつは硬めのガムにする(ノンシュガーのもの〕」などを実行するよう心がけてください。こうすれば自然にかむ回数が増えるでしょう。
こうした工夫を実行した幼稚園で、知的能力がアップしたという報告もあります。このような食事を心がけても、すでに歯並びの乱れが気になる場合は、やはり、専門医に相談してください。その際の注意として、見た目を整えることだけの矯正はしないことです。特に抜歯をしての矯正は口の中をより狭くしてしまいますので、特殊な場合を除き、しない方がよいと考えます(最近は、歯を抜かない非抜歯矯正も増えていますが…)。
子供の歯の矯正は、あごの成長を促し、よりよいかみ合わせを獲得させるのが目的でなければいけません。それには、あごを広げていく装置が優れており、あごをせばめる装置はあまりおすすめできません。さらに、歯の移動中でも、上下の歯のかみ合わせが左右きちんと確保されていることも重要なポイントです。どの矯正医も初回は相談だけで、いきなり治療を始めることはありませんので、じっくりと相談し、慎重に検討してください。
(歯科医師)
※毎日新聞コラムは林晋哉先生(林歯科・歯科医療研究センター、東京都中野区弥生町2-3-13)の承諾を得て転載しています。