離脱症状

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私の経験した「離脱症状」、これはお酒がしくんだ罠だと思います

  アル中の禁断症状、この言葉から連想するものとして、手指の振戦や幻覚、幻聴があります。私の父親はアルコール依存症であったようで、この幻覚,幻聴も経験していたようです。でも、私は小さくて父の口から直接聞いた覚えはありません。知っているのは恐い話を平気で語っていたとの、母の言葉です。

  今度は自分がアルコール依存症となりましたが、幻覚,幻聴の経験は殆どありません。一度だけ、幻覚らしきものを見たのですが、あまり恐ろしいとは感じませんでした。「とうとう、親父と同じで幻覚まで見るようになったか!」との思いで、しげしげと目をこらした覚えがあります。残念なことに、その幻覚が何だったのかも、ハッキリとは覚えていないのです。たしか、天井を巨大なゴキブリが這っていたと思うのですが、正常な神経ではなく、恐怖が無かったことと、幻覚を見たとの思い、それだけが印象に残っているのです。こんな状態ですから、他にも幻覚を見て、覚えていないだけかも知れません。

   これがアルコールと言う「薬物」がもたらす「離脱症状」、との認識が無かったころの出来事です。

  アルコール依存症に関する書物で紹介されていた離脱症状の出現確率は、下表のようになっていました。

                 
表1  アルコール依存症の離脱症状出現確率
症  状発  汗 手指の振戦 頻回の下痢 頻回の朝の嘔気 こむら返り 幻  覚 痙攣発作
出現確率77% 87% 67% 70% 67% 52% 7%


  この内、私がよく経験したのは、発汗,頻回の下痢 頻回の朝の嘔気 こむら返りです。

  この離脱症状の内で、即効性の高いダメージはこむら返り。これは、寝ている時に急に襲ってきて、のたうち回ります。私の父もよくなっていたようで、子供心にも心配でした。自分の番になると、誰にも代わってもらえないし、私が呻いていても、隣では家族が熟睡している。翌日は足を引きずるようにしての出勤でした。

  ローブローのように「じんわり」効いてくる離脱症状は、頻回の下痢。体内から栄養が無くなっていくので、内科の医師からは栄養失調を宣告されてしまいました。肉体的には、徐々に体力が落ちていき気力が萎えていきますが、下痢が原因の失敗を経験すると、精神的にもダメージを受けます。

  汚い話ですが、下半身からガス体を発射しようとした時、液体が混ざって射出、思わず「エッ!?」です。外出時に下半身からのガス体発射を控える気遣いは、普通の人の苦労とは大きく異なります。
  ある時など、玄関のドアを開けるのももどかしく、帰宅と同時にトイレへ駆け込みましたが、タイムアウト。下着を汚してしまった経験も、一度や二度ではありません。

  こんな惨めな経験は、自尊心を傷つけます。俺はだらしない人間だ、その思いが強くなっていきます。

  このような離脱症状の中には飲酒を強要するものもあります。私の場合は頻回の朝の嘔気です。気分は悪いし、頭もモヤモヤしている。休日の朝にはお酒を飲まなければならない最大の原因でした。仕事の日には、さすがに飲みませんでしたが、駅前でドリンク剤を良く飲んでいました。お酒を飲んでも、ドリンク剤を飲んでも、少しはこの嘔気が治まるのです。

  アルコール依存症となってから色々調査すると、このドリンク剤にもアルコールが含まれていました。知らない間に迎え酒をしていたようなものです。ドリンク剤として有名な新グロ**トは0.8%,リポ**ンDは0.34%のアルコール含有率で、法的にはアルコール飲料とはなりません。しかし、大*胃腸内服液は3.5%,ソル**クは2.7%等、医療用のドリンク剤は容量が少ないだけで、法的にもアルコール飲料として通じる濃度なのです。二日酔いには迎え酒が効く、これは薬学的にも正しいのかも知れません。「毒」をもって「毒」を制す、神経を麻痺させて嘔気を抑えるのですから、即効性はあります。

  毎日が二日酔い、その苦痛から逃れるため休日には朝酒、症状が酷くなってくると、悪循環と判っていても止めることが出来ませんでした。「飲酒欲求」と「離脱症状」、この二重苦に対し、気力が萎え、傷ついた自尊心では、お酒を止めることなど出来る訳がありません。お酒を飲んだことは、自分の選択です。そのお酒が、薬物として強烈な依存性を有するもの、その認識がなっかったのは、私の愚かさです。



−−−−− H17年1月15日 補足 −−−−−

  上述の離脱症状は、早期退薬症状と呼ばれるもので、後期退薬症状として振戦せん妄があります。このような退薬症状はお酒を断って1〜4週間で治まるものであり、通常はこれらのことを離脱症状と言っています。(アルコールは薬物ですから、断酒後の血中アルコール濃度が低下して現れる症状のことを退薬症状と呼んでいるのだと思います)

  しかし、アル症者がお酒を断った後経験することは、これだけではありません。以下は、「アルコール依存の生物学:日本生物学的精神医学会編」という本からの私が理解した事項ですが、断酒開始から長期間にわたって、アルコールの害は残ってしまうのです。

  アルコール退薬後の症状は多彩で、多次元的です。離脱症状と呼ばれる退薬症状、退薬後情動障害と呼ばれる遷延性退薬徴候、アルコール性脳障害から構成され、そのどれもが、それまでの生活暦、教育暦、あるいは知的能力、性格傾向などに修飾されて表現されるのです。そして、症例ごとに退薬症状、遷延性退薬徴候、およびアルコール性脳障害の各要素に軽重が見られるのです。

  退薬症状はおおむね1〜2週間で終息し、4週間を越して持続することはなく、この退薬症状が終息してもアルコール性脳障害は改善が不充分で持続していることが多いようです。退薬症状が終息に向かう頃から、退薬情動障害(遷延性退薬徴候)が顕著になってきて、遷延性退薬徴候の経過とともにアルコール性脳障害は改善するのですが、ある水準まで回復した後は、改善が緩慢になったり改善が見られなくなってしまうのだそうです。

  この遷延性退薬徴候は断酒後6ヶ月の間に最も顕著で、徐々に軽減していくものであり、この遷延性退薬徴候の中にドライドランク(猜疑的で自己中心的、他罰的な態度)や飲酒欲求も含まれるもののようです。

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