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「エンドレス マーチ」 発行 2004.03.21 A5/フルカラー/P28/60g/\300 令由乃・小説。 脇は祥子さま、祐巳、志摩子さん。 文字詰め込みました。内輪に好評。(黄薔薇らしいと言われたので、なんとか雰囲気は出せてるかと) 現在、通販のみ。 夏コミには余裕があれば持込ます。 (送料には封筒20gを加算して計算してくださいね。これ一冊だけだと140円切手で大丈夫です) |
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エ ン ド レ ス マ | チ |
れいちゃん。 舌たらずな幼い声が耳に届く。 「令ちゃ……ううん、お姉さま以外で好きなひと?」 長い三つ編みをちょこんと両肩にのせながら、先日「黄薔薇のつぼみの妹」から「黄薔薇のつぼみ」へとその栄えある称号を変えたばかりの少女、島津由乃はいぶかしげにそう問い返した。 伝統あるリリアン女学園の姉妹制度の中でも、特に有名で知名度の高い薔薇さまの妹――――その自覚はあれど、どうも最近うっかりと気が抜けることが多い由乃は、ついいつもの調子で出てしまった「令ちゃん」ことお姉さまの呼び名に僅かにしかめ面をして、 「―――そんなの、いるに決まってるじゃない」 視界の隅であからさまに聞き耳を立てているお姉さまに向けて、……寧ろ、届くようにきっぱりと言い放った。 途端にがっくりとしょぼくれる令ちゃんの姿は、もう予想通り。 もっとこっちがびっくりするような意外性のある反応はできないものだろうか。令ちゃんの反応はいつでもどんな時でも、非常にわかりやすくて単純で困る。いいや、困るというよりは単に面白くないだけなのだ。 (近年、ますますドキドキ感がないんだもの) 贅沢だとはわかっているけれど、そんな由乃の不満が鈍感な令ちゃんについぞ伝わることがないのだから余計に不満は募ってゆく。 だからついつい意地悪をしてしまうのだ。悪気はないのだけれど、意地悪としかいいようのない言動の数々を。……なんだか好きな子をいじめて気を引こうとしている小学生みたいな気もするが、それはこのさい横に置いておこうと思う。 「……由乃さん?」 「え? ああ、ごめんなさい」 いけない、いけない。 不満が顔にでていたのかもしれない。慌てて由乃は目の前のクラスメイト、祐巳さんの困惑顔へとその視線を戻す。すると、くすくすと背後から楽しげな忍び笑いが洩れてきて、更に慌てて由乃はその小鳥のような囀りの笑い声へと振り返った。 |
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祐巳さんと話をするのはとても好き。病気の所為でつい引け目を感じて、尚且つ内弁慶な性質もあって今までこんなふうに気楽に話せられる人がいなかったから余計とそう思うのかもしれないけど。 でもやっぱり一番大きな理由は、祐巳さんが祐巳さんだからだと思う。 志摩子さんとはまた違った柔らかい空気があって、そこにいるととても自然に、楽でいられるのだ。内訳をすると、祐巳さんは穏やかな気持ちに、志摩子さんは静かな気持ちに。 (きっと、志摩子さんもそんなふうに思ってるんじゃないかな) 人間の良さなんて、他人のことはわかっても、当の本人が自分の良さに気づくことなんてあまりにない。だから祐巳さんには祐巳さんの、志摩子さんには志摩子さんの良さがあって、それを知ってる自分がいる。 巡り巡って、わかること。 それが人間関係の一端にこっそりと存在しているのだろう。 |
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「…………あの、令さま?」 声をかけてしまってよいものかどうか。 一瞬考えあぐねてしまった祐巳だったが、結局好奇心には打ち勝つことができず、おそるおそる声をかける。今にも風化しそうな勢いの、弱々しい瞳が一応すぐに祐巳を見返してくる。 だがどうにも焦点があっているように思えない。 風化を通り越して、これではまるで亡霊のようだ。 本人には決して言えぬことをこっそりと思いながら、 (まあ……仕方ないよね) その原因を知っているだけに、祐巳は同情を覚えるばかりである。 しかしこの決定的な破壊力。 絶大すぎる一言というものが、これほどまでに人の精神破壊を担うとは……同情しながらも、一方ではその凄まじさに圧倒され、ともすればうっかり感心してしまいそうになる。それだけふたりの繋がりが強いものなのだと目に見えてわかって。 (でもさすがに、これは……) 一般生徒の憧れ――――黄薔薇さまとは思えない、魂の抜け方だ。 今日一日、どうやって過ごしたのか、とてもとても気になる。 まさか一晩たって、この状態とは。 (いやいや、一晩たったからこそ、余計にドツボにハマってるとか) 「……………………由乃……」 「――――」 どうやら大当たりのようである。 |
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「ない、とはっきり、今、ここで、私の前で言える? もし言ったら、……お姉さま? 私――――本気で怒るから」 |
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一歩、足を踏み出すごとに変わっていく。 巡る季節よりは性急に、飛び出す言葉よりはゆっくりと。 そんなふうに世界は――――。 (ねえ、変わってるんだよ? 令ちゃん) くるくると回りながら。 止まることはなく。 サワ、と頬を撫でていった風に由乃は前髪をおさえる。気づけば人でごった返していた駅前を離れ、いつの間にやらまったく人気のない道にでていた。このまま近くの河川敷にでも行ってみようか、と唐突な案が思考を掠め、そんな身軽な気分のまま歩を進める。 背後の気配は変わることなく、あるのだし。 何処にいったっていい。ほとほとと時間をかけてゆっくりと歩く。目に映る世界に瞳を細め、微笑みながら。もう時計は見ない。 空のほうへと視線を流すだけで、それだけで。 やがて、ふいっと目の端で何かが飛んでいくのを追って見ていけば、二匹の秋茜が仲睦まじく空を駆けている光景であった。 近すぎず、離れすぎず。 淋しさを一滴落としたような沈み出す空のなか。 ――――そんな、なかを。 世界はいつだって回ってる。 止まることなんてありえない。 だって世界はいつだって回ってないと困るのだから。 だから、そう、 由乃の世界もきっとそういう風に回ってるのだ。 |
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(「エンドレス マーチ」一部抜粋) |