―――――――「見上げた先で」



最後の戦いを前にして、皆が忙しく、或いは気合いを入れて各々のとるべき行動をとっている。決死の覚悟で望むと同時に、成功させる為に万全の対策と準備を怠らぬように。そんなふうに皆が懸命に、迫り来る未来への抗いを成功させようとしている。だからこそ。
小刻みに震える指先を両手で握り隠しながら、
「大丈夫、……大丈夫、です」
ただ一人きりの呟きを、アティはゆっくりと己が内側へと沈み込ませてゆく。
不安はみせられない。戦いの要である私がしっかりしなければ、皆が不安に思ってしまうだろう。
奮い立たせるようにして紡ぐ言葉は、けれど誰にも聞かせられないくらいの弱々しさが、悲しいかな宿っている。船舶の丸い窓から覗く空はこれから起こるであろう出来事の大きさなど素知らぬ顔で、悠々と澄んだ青さをみせている。こんなふうに全てが終わったあとでもこの青い空を自分は見ていられるだろうか。
不安は心に陰鬱としたものを浮かび上がらせる。そこへ。
「センセ?」
唐突に呼ばれ名に、はっとなって顔を上げると、空の鮮やかさにとって変わるような暮れ落ちる紫紺の髪をした男性がそこにいた。……いや、男性といってもよいものかどうか。
わからないけれど、自分にとってはそれは間違いないのだから別段気にすることではない。
「スカーレル…」
「あ、やっぱり。赤い髪が見えたんで、多分そうだと思ったけど、当たっててよかったわ」
「……はい、当たりです」
彼はいつでも気軽に声をかけてきては、自分に笑いかけてくれる。どんなに落ち込んでいても、めげていても。彼は変わらずにいつもそこで自分が立ち上がるのを待っていてくれるのだ。その、何気ない気遣いと羽根のような軽やかさがいつも心地よく、ふとすれば頼りがちになってしまいそうな恐れを覚えながらも、結局は側にいてくれることを嬉しく思っていた。
「どうしたの? センセ。随分しょげてるじゃない?」
「そんなことは……」
ないとは言えない、息苦しさが咽喉を通る。
不安は消えず、自分の手には多くのものが宿っている自覚がある。そのことがある限り、それは落とすことのできない重責となってこの肩にのしかかるのだ。
大切だから。
守りたいから。
笑顔を。皆の笑顔をこれからも見ていきたいから。
「ごめんなさい」
「え?」
先に断ってから、踵を上げた。きょとんとするスカーレルの口唇に程近い頬へと、狙いを定めて。
「せ、せんせ!?」
「……ごめんなさい、あの、急に……したくなっちゃいました」
反省すべきはそこではないと理解しつつ、衝動という名の愛惜に謝罪を零す。けれど知っている。たとえ何があろうと、
「……いえ、それはいいんだけど……。あの、センセ?」
「はい」
「じゃあ、もう続きはいらないかしら?」
彼だけはいつまでもこんな自分の側で笑っていてくれて。
そんな彼を含めた、大切な人たちの笑顔を自分は守ってゆきたいのだ。
これから望む戦いはそういう戦いであることを、彼も、自分も。
「…好きです、スカーレル…」




きっと、それだけは何があろうと知っている。
二度目のそれに今度は少しだけ踵をあげてアティは瞳を閉じた。



fin.


スカアティでこんな感じのを夢見てしまいます。
アティてんて(先生)は、こんな積極的な人ではないんですが。アティてんてのカプリはどれも可愛くてもう惚れ惚れ。(ウィルとかイスラとかカイル船長とか)過去の重さも惚れ惚れ。
レックスせんせだと、アルディラさんとか、アズリアとか、ソノラとか、クノンとか。(最後……)
こっちもこっちで色々とときめくカプが多いです。
なんかもうほんと。好きで。サモン3。
さみしくなったら思い出してます。(不明)
小話程度なのですが、読んで下さりありがとうございました!サモンが好きだ!(合い言葉?)


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