--------------「涸れる」


押し潰した。
それは、焼き切れるほどに焼きついた戦慄の光景であった所為か、或いは底の見えぬ誰かの思惑の所為であったか。
ただ、ずきんと突き刺すような痛みが。
じくりと疼くような痛みが。
……私の何かを押し潰し、そして。




「……あ……あ………ああっ……!!」
大切なひとを亡くして泣くことが、こんなにも痛いものだったなんて、幸福なことに私は今までまるで知らなかった。
泣き叫ぶ声が痛い。咽喉も。目も、耳も、手も足も、痛さを押し出すための舌でさえも、――全身が痛くて痛くて仕方がない。
どこを見ても、どこを覆っても、眼球に染み込んだままの朱と深い喪失は痛みとともにけしてどこかに消えるでもなく、私に、その存在を知らしめてくるのだ。
知らなかった。
いいや、知らないままでいたかったのだと言ったら、あのひとはこの私の傲慢な愚かさとわかりやすい幼さに、笑うだろうか。困った子だね、と穏やかな微笑をいつものように私へとくれるだろうか。
ああ、でも知っている。
私はすでに知っているのだ。
彼はもう。
―――もう、どこにも。

「あ、藍……ぜ……隊……っ……長……ッ!!」

いない、と。
……私は知ってしまった。だから泣いている。
そして泣くことにも果てのない痛みがあることを。
けして浄化されぬ痛みがあることを。
この身を以て知ってしまった。だからもう遅い。
けれど考える。いつまでも、いつまでもいつまでもいつまでも、思考する限り、

「………ったしが……っ………もっと……早くに……っ!」

…気づいていたらこんな痛みを知ることはなかったのだろうか。
答えは明確。巡る思考が導きだすのは、ただひとつの肯定。
―――そう。
私は遅すぎた。やがて、知ったことへの引き換えのように、失ったものへの大きさにただ愕然とし、怒りを覚え、視界を朱に染め替え、耐えがたい痛みをこの身に受けた。それはどんな傷よりも深く、目の前が真っ暗になる瞬間に、軋みをあげて私のそれを跡形もなく押し潰したのだ。
すべて。
一切の欠片さえなく。
まるで、地獄にあるという猛々しい紅蓮の業火のように。
それは私を枯らした。
たとえもし、それでも残るものがあったというのなら、それはきっと私という身を被った、ただの抜け殻だ。何の価値もない。何を見い出すこともできない。
ただの抜け殻。
だって一番大切なものは失われてしまったのだから。
完膚なきまでに押し潰されてしまったのだから。
何もない。もう、私には何も残されていない。
あの朝、あの瞬間に――――


私は。



(………………許……て……ください……藍染隊長……)




押し潰され、引き裂かれてしまった。
――――ココロという名の、今は亡き存在ごと。





fin.




BLEACHにて、桃→藍染。事件のあった日、牢に入れられてから。
涙が涸れても、ひとは涸れない、というような話……を、書きたいと思ってました。
(実際には、途中でどうなのこれはと文章レヴェルの低さに我に返って放置プレイ)

物陰からそんな痛々しい雛森ちゃんを、様子見に来た日番谷くんがみてるの希望。
というような創作当初のメモ書きを残しつつ、意味不明短文だなあと今見て思う昨今です。


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