「 ここでふたりで 」



イヴもクリスマスも年越しもお正月もいっしょ。

コレってある意味もう殆ど、姉妹同然なんじゃないかなって時々由乃は思ってしまう。
多分問ってしまえばきっと否定は返ってこないような気も……確かにしてしまうのだから、それはもうなんとなくなんかではきっとない範疇の問題だ。でも姉妹なんかじゃない。
家は違うし、部屋だって違う。
家は隣で、部屋はどちらかに入り浸りなだけ。
それだって充分、否定すべき要素をもっている。
いやむしろ否定して当然のものなんだけれど……。
「ねー、由乃ー?」
間延びした声がひどく呑気に幸せそうに由乃の耳に届いた。
なに? とすぐさま聞き返すと一つ年上の従姉妹、令ちゃんがコタツの上に顎を乗せつつ、半分以上夢の住人になっているところだった。器用な寝方をしているなあ、と変なところについ感心してしまう。
「今年のクリスマスはどうしよっかぁ」
「どうするって、……なにが?」
「だからぁ……ケーキ」
「ケーキ……? ああ、そうか。今年はみんなで集まろうって話だもんね。みんな令ちゃんのケーキ楽しみにしてるよ」
うん。きっとね。
だって令ちゃんのケーキはお店にだしたって平気なくらい、普通に美味しいし。夢のような小説や甘いお菓子を作るのが大好きな令ちゃんはきっとおそらく在学生の大半が想像もつかないだろう、乙女ちっくな趣味と性格をしていて、さらにその腕前の追究に余念がない。
(まあ、由乃のためってのもあるんだけど……いや、ノロケじゃないけど)
そう、それはノロケなんかじゃなくてただの真実。
由乃のための向上心。
年々大きくなってゆくバレンタインのチョコケーキはまあ確かにどうかと思うけれど、由乃はそんな令ちゃんのことが大好きなのだから仕方がない。
みんなが令ちゃんのケーキを楽しみにしてるように、由乃だってとても楽しみにしているのだ。
クリスマスケーキ、みんなと食べるそれを。
「じゃ、なくってさ……由乃は……今年は…なにがいい?」
「え」
「リクエスト、きくよー……ふぁあ…」
って、そんな寝惚け調子で言われても。
「えっと、それは、クリスマスの集まりとは別に令ちゃんが私にくれるってこと? …で、いいの、かな」
みんなでいっしょに食べるクリスマスケーキ。
まとまった人数分を焼くのは大変だろうし、それになんといってもこの令ちゃんのことだ。
一つだけでなくて色々バリエーションを考えているに違いない。だからこそ、今年は由乃の方までは手が回らないだろうと、実はこっそり諦めていたのに。
「あたり……まえ、でしょ……」
「………」
こっくり。――と、虚ろだった令ちゃんの声と目が眠りの森へと沈んでゆく。すぐにスウスウと規則正しい呼吸が聞こえてきて、呆れ半分、喜び半分で、由乃はそうして滑り込ませるべき言葉のタイミングを永遠に失ってしまった。
多分もうきっと届かないだろうな、なんて思った、けれど。
でも。
「令ちゃんが作ってくれるものなら、…なんでも好きだよ」
くすりと笑って由乃は器用な態勢のまま寝入ってしまった令ちゃんの背中にずり落ちてしまったカーディガンをかけてあげる。
その、猫のように丸まった背中が今はただ愛しい。
「……うん。大好きだよ」


イヴもクリスマスも年越しもお正月も、いつもいっしょ。
コレってある意味、もうほとんど、姉妹同然。
(でもね? 令ちゃん)
やっぱり私たちは姉妹なんかじゃない。
当然のように好きだけれど。
当然のように一緒にいるけれど。


姉妹じゃないふたりが、ここにいっしょにいることがすごくすごく奇跡的なことだと。
そう思えることが時にあるから。


「私たちは、私たちで、良かったね?」


ここでふたりで。
いつものように、いつもと同じに。
きっとこれからもふたりで同じ時間をすごしていくんだろう。
とても愛しい奇跡に感謝しながら。




――きっとこれからもふたりで。





fin.

(04/11/10)
去年の今頃あたりに日記で書いてたものなんですが、少しだけ手直しして再アップ。
黄薔薇はまったりした熟年夫婦な二人で有名ですけど、そういう中で由乃さんが素直に甘えてる姿とか、かわいいなあと思うわけです。素直らしくない素直な娘です彼女は。でもってそういう由乃さんの甘えてる行為をわかってたりわかってなかったりする令ちゃんがヨワヨワしくて好きです(悦)




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