Out of standard #01
「そして誰もいなくなりかけた」
私が大学時代に所属していたクラブでは、毎年初春に「スキー合宿」という名の拷問課外合宿がありました。
やはり大阪で生まれ育ったクラブ員が多い分、スキーどころか雪にさえあまり触れない人が多い、というのが実情でして。
あれはたしか97年の3月。クラブ員それぞれが自由に滑っていた昼下がり。
私は友人のKと林間コースを滑っておりました。
「林間コース」なんて聞くと穏やかそうな印象ですが、実際は幅が2Mほど、片側は山で、もう片側がガケ。
ガケの下は木々に覆われて谷底も確認できず…柵もなし。
嫌が応にも緊張感が。
しかも、時期が3月という事で雪質はザラザラ。
雪面ボッコボコ。
我々初心者軍団にとってはもう、「今そこにある危機」(古い)なワケでありまして。
合宿前にクラブ員のうんちく王が
「…スキーの発祥って、崖下に罪人を滑落させる死刑の手段だったんだよね…」
なんて事を言ったもんだからますます気分が落ち込んだり。
林間コースの途中で疲れたもんだからKと一緒に座って休憩中、
K 「ハラ減ったな。」
DS 「あぁ、まだ昼メシ食ってへんからな。 レストハウス行って何か食ってくるか?」
K 「いや、ええモンあんねん。(ゴソゴソ)…ホレ、カロリーメイト。」
なぜカロリーメイトがむき出しのままポケットに入っているのかについては深く考えず、
とりあえず受け取りモソモソと食べていると、山手から後輩のMが一人でヨロヨロと滑ってきまして。
K 「おーい! カロリーメイト食うかぁ?」
と、Kが不意に声をかけたところ
後輩 「ハイッ?! あ、Kさん、DSさん!こんな所で何してはるんで…あぁーーーーーーーっっ…」
ノーブレーキのまま躊躇なく谷底へ消える後輩。
K 「…落ちた。」
DS 「…あぁ、落ちた。」
一瞬、何が起きたのか分からなかったんですが、
人の死に直面するってこんな感じなのかなー、なんて不謹慎な思いが脳裏を駆けめぐったりしつつ
慌ててがけっぷちへ駆けつけたところ
K 「おーい、大丈夫かーーーーあぁーーーーーーーっっ…」
DS 「お前まで落ちるなよ! おーい!」
Kまでもがものすごい勢いで崖下へ滑り落ち、あっという間に視界から消える。
二人とも見るも無惨な塊になってたらどうしよう…なんていう妙な高揚感を覚えつつ、
スキー板を脱いで慎重に崖を歩いて下ると、かなり下った地点に別のゲレンデが下に広がっており、
二人とも無事ゲレンデに突き刺さっておりました。
何が大変だったかってね、
私のスキー板だけ滑落ポイントに置いてきたという点。
板を履かずにリフトに乗る屈辱感たらないね。