実際の裁判の結果は、「たぬき・むじな事件」の被告は無罪、
「むささび・もま事件」の被告は有罪でした。
「たぬき・むじな事件」については「事実の錯誤」、
つまり自分が行った事実が正確に認識できていなかった
ということであり、「むささび・もま事件」については
「違法性の錯誤」、つまり自分の行いについては正しく
認識していたけど、それが法に触れるということを
知らなかったという判断がなされたのです。
さて、これらの判断と、有罪・無罪の関係はどのように
なっているのでしょうか。
ここで、有罪と無罪の分かれ目となる判断の詳細を考えます。
「事実の錯誤」と「違法性の錯誤」の決定的な違いを
極端な例を挙げて比較してみましょう。
あなたが自分の持ち山に狩りに行った時、突然現れた人影を
猟銃で撃ち殺したとします。
「熊に襲われると思って無我夢中で撃った」ということであれば、
熊と人という「事実の錯誤」によって、故意の殺人ではなかった
ことが認められるでしょう。
しかし、「人の山に無断で入る奴は撃ってもいいと思った」
というのであれば、これは法律を知らなかった、つまり
「違法性の錯誤」にあたり、殺人は故意といえるでしょう。
このように、錯誤の種類によって判決が変わるのはうなずける
話でしょう。それが何故「たぬき・むじな」と「むささび・もま」
で分かれるのでしょうか。
「むじな」という名前は恐らく皆さんも耳にしたことがあるのでは
ないでしょうか。「むじな」という名がよく知られているだけに、
「たぬき」とは別の生き物であるという認識が生じても仕方が無い
ことかもしれません。
一方「もま」という名前をご存知の方は稀でしょう。その名前が
マイナーであると同時に、むささびのあの姿は独特ですから、
「もま」を見た時に「あれはむささびと同一ではないだろうか」と
思い当たって然るべきでしょう。ですから、事実の錯誤ではなく、
「もま(むささび)を獲ってはいけない」という狩猟法を
知らなかったという、違法性の錯誤が適用されたのでしょう。
ただし、これらの事件については法律家の間でも様々な意見に
分かれているようです。確かに難しい問題ですね。