Out of standard #07
海が見える、と彼女は言った

いわゆる『前世占い』と言うものを見てもらったことがあります。
一緒に行った友人Fが
 「面白そうやんか。」
と言ってムリに私を誘い、入った小さなビルの一室。
薄暗く、紫ベースの室内に居たのは宝塚歌劇団の出来損ないみたいな女性。
占い師って、みんなこういう格好をしないといけないのかしら。

 占い師 「ようこそいらっしゃいました…さあ、そちらの方からお座りください…」

早速ご指名を受けた私は、いそいそと前に座った。
水晶に手をかざしながら一言一言、噛み締めるように呟く占い師。

 占い師 「何を占いましょうか?」

といわれ、ベタに
 「俺が今から何を占って欲しいか、を占え。」
と言いかけるも、その占い師の格好と室内の妙な雰囲気が
 「ふざけるとマジで怒りますよ」
的な有無をいわせないモノがあったので、看板にあった「前世」をみてもらおうと告げると
生年月日と名前だけ聞かれるとおもむろに水晶に手をかざし始め

 占い師 「う…ん。 見える…見えますよ…。」

とのこと。

 占い師 「あぁ…海が見えます。とても広い海…」

狭い海なんてねーよ。と心でつっこみ。

 占い師 「凍てつくような広い海の底…そこに貴方はいた…」

さっきまで馬鹿にしていたのに、その一言で急に身を乗り出した私。
 「ディカプリオだ…!」
丁度その時期、巷では『タイタニック』の公開時。
私の中で、自分の前世はタイタニックと共に沈んだ悲劇のヒーローなんだ、と妄想は広がっていった。
頭の中ではセリーヌ・ディオンの歌声がグルグルまわり、
誰だか知らない女性を船首で抱きしめる自分の姿を想像していた私。

いや、もしくは5つの大陸を股にかける大海賊だったのかも。
義理を重んじ、民間人には手を出さず、悪徳商人の舟や武器輸送船などを片っ端からやっつける
伝説のヒーロー。それが俺。


妄想が膨らむ私に、占い師は衝撃的な一言を発した。




 占い師 「…分かった。ペンギンだ。」

 DS 「ペンギンかよ!」

 占い師 「そう、ペンギン。 とっても好奇心の強い性格だったみたいですね。」

好奇心の強いペンギン…それが僕の前世。
崩れ落ちるディオンの歌とディカプリオ。まさにタイタニック。

それ以来、なぜかペンギンを意識するようになってしまった私。
来世があるとすれば、もう一度ペンギンになるのもいいなぁ、と思ったりもする。

ちなみに、一緒に行った友人Fの前世は

 占い師 「稲。」

…だった。 なんで穀物やねん。