Out of standard #20
深夜の訪問者
<attension! 不気味な話が含まれています。その手の話が苦手な方はご遠慮下さい。>

ずいぶん前の話ですが、私が中学の時の話です。
オカンの実家、長崎県へ法事で帰省した時の話。

そのおばあちゃんのウチというのが…またエラく年季の入ったお宅でして、
よく言えば『トトロ』や『まっくろくろすけ』が出て来そうなジブリ・ファン感激モンの家。
悪く言えば祟りの一つや二つ抱えてそうなお家。

いえ、実家の方々は物凄〜くイイ人たちばかりで私も大好きなんです。
素朴で正直で真面目なのに面白くて。

でも、家の独特の雰囲気はまた別の話。
私がまだ小さい頃、何度この家に泣かされてきた事か。
大好きな親戚のおじちゃんたちとのギャップが、また不気味だった。
夜になって寝静まった後の静寂は、当時の私には恐怖そのものだった。

とは言え、中学時代。夜の静寂ぐらいでは泣かなくなったのも事実。
いつも、私たち家族が帰省した際に寝室として用意してもらうのが『離れ』。
おじいちゃんが生きてた頃の書斎だった所です。
長〜い廊下を経た後に現れる、薄暗い書斎。
いかにも京極夏彦がいそうな雰囲気。

夏の夜。クーラーなんて野暮なものは一切なく
泥棒の心配もそうそういらないような田舎のこと、蚊取り線香を炊いて扇風機を回しつつ、窓は全開で寝る。
これが通常の就寝。
実家の周りは見渡す限り田んぼで、隣家との距離も100メートルはありそうな離れ具合。
虫やカエルの鳴き声が響く中、中学生の私はいつものように長崎の実家での夜を迎えていた…

帰省中ならではの、久し振りの家族『川の字』で寝る格好に照れくささを感じつつも、
長旅の疲れもあって自然とまぶたは閉じていった。

「…?」
窓の外から音がする。 …いや、声がする…。

もちろん、窓の外といえども裏山に面してるだけで、
人は普通に通れるし不思議もない。確かに、道があるわけでもないのでおかしいと言えばおかしいけど。
その時の私は、

 「おじさんが畑仕事かなんかで裏山へ来たのかな?」

程度にしか思ってなかった。

…○△□…

…×☆◎…

何を喋ってるか聞き取れそうなくらい、その声が近付いてる。
窓は全開のままだし、目を開けて窓の方を見れば親戚のおじさんが見えるかも知れない。

浅い眠りにつきながら、僕は頭の中でそう考えていた。

…そこ…にいる…

…いるぞ…

いる?

何がいるんだろう…。

蛇かな。
親戚のおじさん、こんな時間に蛇を退治に…



来るわけないよな…?!


こんな夜中に、裏山まで蛇を退治に来るわけがない。
そもそも、おじさんの声か? あの声…。
「泥棒か?」一瞬そう思って目を開けそうになった瞬間。

『やばい』

自分の中で何かが警鐘を鳴らした。
いつのまにか、全身が鳥肌でびっしりなのが分かる。
真夏とは言え、私は布団の上で汗ビッショリ、なのに凄く掛け布団が欲しかった事を覚えてる。
何か、自分を隠す「へだたり」が欲しかった。
その時の私は、Tシャツに短パンで、何もかけずに布団に大の字に寝てたから。
敷布団の下に潜り込もうかと思った時、窓のすぐ外でまた声がした。

…そこなら…

「窓か?!」

今考えても、その時の自分の行動は無意識だったと思う。
窓に飛びついて、一気に窓をバーン!と閉めたのだ。

その音にビックリして両親が飛び起きる。
電気をつけて「どうした?」と問い掛ける親父とオカン。
半分パニックになって会話が出来ない中学生の私。




次の朝、実家の人たち誰に聞いても「そんな時間に裏山へは入ってない。」という答え。
「泥棒やろか?」と不安がるおばあちゃん。
でも、『離れ』の窓のすぐ外は細かく木々が生い茂る場所なので、
人が来れば枝や葉に触れる音ぐらいしそうなものなのに虫とカエルの鳴き声しか聞こえなかったのは何でだ?
それとも、私がパニックになって枝の折れる音とかを聞き逃してただけなんだろうか?

窓を閉める瞬間、僕が窓の外の月夜に見たのは… 白い歯。

誰かがそこで笑ってた、って事だろうか?
あれは泥棒だったのか…。




それとも