Out of standard #30
禁じられた世界

世の中が夏休みに入った事で、急に大人が入りづらくなった場所があります。
その名は

『おもちゃ屋さん』。




ワタクシ、壁や机に向かって 「こんな問題分かる訳ぁねーだろっ!」 と当り散らし、
もがき苦しみながら試験勉強した結果、公務員一次試験をなんとか通過いたしました。

そんな、手足に生傷をたくさん負ってしまった自分への慰めと致しまして、
「実況パワフルプロ野球」
を自分から自分へプレゼント。
不甲斐ない我がベイスターズの代わりに、私自らが優勝フラッグをベイスターズにもたらそうと。

リボンをつけて自分の家宛に郵送しようかとも思いましたが、
時間と金が余計かかるのでそれは断念。(嘘)

で、近くのゲーム屋さんに行った所…

子供で溢れかえってる!
めちゃ賑わってる!
って言うか入り浸ってやがる!
何か、店の前の路上でカードの交換会が行われてたりするし。

 「じゃあ次。このカード、交換したい奴は手を挙げて!」

とか言って、交換会の元締めみたいな子供までいるじゃないか。
ハッキリ言って、オイラにとってみれば
 コンビニ前でたむろしてる金髪高校生たち
よりも怖くて仕方がない。

その集団を恐る恐る越えて店内へ。
通る時、明らかに
 「コイツ誰だよ…」
 「知らない顔が来たぜ…」
 「いっちょ、シメるか…?」
っていう子供達の心の声が聞こえた気がした。
…多分、海外の治安の悪いバーに夜中に入る時はこんな感じなんだと思う。

店内。
さらに子供ばかり。
ちょっとしたガリバー気分。
普段ならこんな昼間に子供がいるわけもなく、
閑散とした店内にスーツ姿のお兄さんや大学生らしき人がいるような店なのに
夏休みという事で子供の楽園と化した店。

店員さんに

「…あのぅ。 『パワプロ』をば欲しいんですけどぉ…」

と問い掛けるも、子供に絡まれて身動き出来ない店員さん。店内うるさ過ぎ。
でもその声に気付いてくれたのか、慌てて店の奥から店長らしきオジサン登場。
あぁ、救いの神だ!


…オイラの所に来る前に、子供に
 「遊戯王カード下さいっ!」
って声かけられて捕まるオジサン。

捕まったが最後、ワラワラと
 「これも!これも!」
と色んな子供から注文殺到。
オジサンあえなく餌食。

子供達はカードを買うなり袋をその場であけて中身確認、
狙ってたカードがなければ再び 「遊戯王カードもう一つ下さい!」攻撃。
その子のお金がなくなると、次の子が同じ行動を繰り返す。
続々と子供が店内に入っては出て行き、そして新しい子供が店内に入ってくる繰り返し。
外ではカブったカードの交換会で盛り上がる。


一つの社会が形成されてる!!
恐るべき秩序形成。


取り残されたワタクシ、為す術なし。どうしたもんか…

 「これはきっと、罪もない壁や机に当り散らした報いだ…
  おばあちゃんが言ってた。全てのものに神様がいるんだって…。」

そんな昔話を思い出しながら途方に暮れていた所、その場にいた女の子が大きな声で

 「ねぇ、オジサーン。この人パワプロ買いたいんだってー。」

と言ってくれたではないか!



急に静かになった店内。
店内にいた子供達が一斉にオイラに注目。
これは恥んずかしいぃ〜〜〜〜〜!!

大人のクセにオドオドしたまま何も出来なかった俺。
反対に、まだ見たところ小学生1〜2年のその女の子はなんてしっかりしたお子様なんでしょう。
きっと貴女は素敵なレディーになるだろうさ。
周りから小さな声で「パワプロ…」「パワプロ…」「パワプロ…」と子供達が何やら話してる声が。
お願い。お兄さんを話題にしないで。


カード売りさばき地獄から救われたオジサン、つかつかと僕に歩み寄り

パワプロかね? 売り切れてるんだわ。ゴメンね。




恥んずかしいぃ〜〜〜〜!!

店内の子供達が「パワプロ売り切れ…」「売り切れ…」「かわいそう…」と囁く会話がモロに聞こえる。
お願い。せめてもっと小さい声で話し合って。








ドラえもん。
いるのかい?ドラえもん。
もしいるならタイムマシンで10分さかのぼって、店に入る前の俺に
「悪いことは言わない。入るな。」
と伝えて。お願い。